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福間健二のページ

  • 『パラダイス・ロスト』に出てくる詩 07

    *福間健二作品 部分が出てくるもの(4)

    ルールの説明

    もっとゆっくり話してください

    と言えなくて
    まず、廊下のきたなさに
    ショックを受けていることにした
    つぎに、おおよその見当で
    その案内人の妻や子どもたち
    あるいはかれの気のあう同僚の
    好きな食べ物やテレビ番組を
    好きになろうとして
    ぼくはすこし無理をした

    夜、なにかが打楽器を鳴らしながら
    近づいてくると思って
    部屋をとびだし
    廊下を戻れなくなった
    でも、許される失敗だったのだろう
    案内人が自殺した日も
    かれの妻はパソ・ドブレを踊り
    目は笑っていた
    なにかが近づいてくる
    ある程度、それはほんとうだったのだ

    ぼくの入れられた人生は
    空気も光もたっぷりとあって
    ルールにしたがえば窓から
    夢をみない眠りもやってきた
    たぶん、自分を心配してくれる人の
    やさしい気持ちに
    退屈していれば
    この機械は動いてゆく
    ここでも、ルールは
    説明を聞いてわかるよりも
    慣れることが大事という窓からの眺めだ

    ピクニック気分で行くのはおかしいが
    前もって許可をもらうまでもない
    そういう町へ
    出かけていって
    わずかに残ったモヤモヤを
    くっきりした線にからませようとして
    できなかったときも
    べつに悲しくはなかった
    具体的には
    耳が完全に遠くなり
    図々しい老人になっていた

    昔、犬を飼っていた
    よくいうことをきく犬だったが
    一度だけ、歯をむきだして
    うなったことがある
    それを思い出しかけたが
    一度に長い道を歩く必要もなかった
    動きはじめる濃い雲に
    ここまでという印を読み
    ホテルに入り
    テレビをつけっぱなしにして
    倒れていればよかった

    〔ノート〕詩集『地上のぬくもり』(1990)所収。ラスト、ヒラカズ先生の声で、「ぼくの入れられた人生は」からの節と「昔、犬を飼っていた」からの節が流れる。撮影に入ったときの脚本にはなかったもので、ヒラカズ先生の夜の歩きを撮ったときに、それをどこに使うにせよ、この作品の言葉を使うことを思いついた。

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