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福間健二のページ

  • 『パラダイス・ロスト』に出てくる詩 06

    *福間健二作品 部分が出てくるもの(3)

    旅の宿題

    山の見えるところに出て
    きみがほっとして
    物語は終わったが
    ひまわり畑に風が吹いている
    あるいは
    罪を意識する旅は終わったが
    魚のスープと固いパンの
    教会のフリー・ランチへと
    人の列がゆっくりと動いている

    この外国から
    ぼくたちはどうやって帰るのか
    絵のような空の
    光の記憶と
    装飾品としての鍵をもって
    開けるべき箱をもたない
    この気楽さも
    だれかが力を入れて押せば
    ばらばらに、ゆうぐれにしりぞいて
    そこで重たい主題になる

    箱に入れたい大事な夢があって
    きみは「かわいい女」で
    ぼくは鉄の木でできていた
    あのころが恋しいか
    それとも、もっと昔
    どんなゆうぐれにも岸辺があって
    そこに人が血をにじませて
    たどりついた印としたような時代に
    気を失って戻りたいか
    熟したいちじくの実をもった
    意地悪な神様が尋ねている

    ぼくたちはうまく迷った
    というところだろう
    けさのきみの不機嫌は
    音楽のように
    目をとじた山にとどいて消えた
    いちど爆発しそうになったものは
    いつかかならず爆発する
    だったら早くと
    山の悪魔はささやくけれど
    山はここでも落ち着いたものである

    まだ風と貧しい人と重たい主題の
    整理がついていない
    考えるぼくと
    感じるきみが
    たがいにまかせたと錯覚して
    退治しそこなった怪物も
    目の前にいる
    やりたいことを
    やってきただという
    生意気な顔をしてね

    〔ノート〕詩集『結婚入門』(1989)所収。信代(佐々木ユメカ)と竹田くん(スズキジュンゾ)の、森のピクニックの場面で、この最後の連を少し変えたものが信代の声で流れる。

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