Reports / Kenji Fukuma's Page
上映レポート
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2020.3.26アップリンク吉祥寺 3月25日
『パラダイス・ロスト』公開6日目の3月25日(水)。
トークゲストは、本作出演の、佐々木ユキこと小原早織さんと、川村講平役の木村文洋さん。
今日は、お二人の人気に加えてアップリンク吉祥寺のサービスデーとあって、たくさんの方が来てくださいました。
今日のトークを「いちばん楽しみにしているのはぼくかもしれない」という福間監督は、一観客として動画撮りをやってました!司会進行役は宣伝の岩井秀世さん。まずお二人に尋ねます。
「福間作品は、今回はプロの役者である和田光沙さんが主役ですが、プロでない人も混ざって登場することがユニークなところ。今日のお二人もプロではない。『パラダイス・ロスト』では、カップルを演じています。お二人が福間映画にかかわった経緯についてお話しください」。
木村「小原さんは福間映画と10年のつきあいですね。ぼくは『秋の理由』からですが、今回は監督の役。どうしようかと思いましたが、福間映画のなかに入ってみたい気持ちと同時に、映画のなかで自分が浮くんじゃないかという不安がありながらでした」。
岩井「ご紹介が遅れましたが、木村さんは現実には映画監督で、『へばの』や『息衝く』の監督です」。
小原「『わたしたちの夏』が初めてで、大学1年だったから、福間さんは先生という存在。授業のあとに、福間先生が小原さんいませんかと言っていて、自分のことかな、と話を聞いたら、映画撮るんで出てもらえませんか、でした。そこから10年、ゆるやかに参加させてもらってます。プロになるつもりはなく、卒業後は会社勤めしてます」。小原さんは、2011年の『わたしたちの夏』では「サキ」という名前ですが、次作2013年の『あるいは佐々木ユキ』で佐々木ユキ、2016年『秋の理由』では名前は違うけどユキのその後的な役、そして『パラダイス・ロスト』で佐々木ユキの7年後の姿として登場しています。
木村「小原さんは、年代を追って、その年齢にしか出せないものを、プロにはできないかたちでやっている。4本はまったく違う出演のされ方だと思う。福間さんは「天使」と言ってますが」。
小原「役は同じだけど、それぞれにちがうかな。『夏』のときに、原民喜の話が出て文章を読みますよね。同じ役で、またちがうセリフを言う。そういうことの積み重ねがあって、かつての自分のセリフを別な人が言ってるのを聞いてて、あのときのセリフだ! ってよみがえってきたりすることがありました」。
木村「福間映画は言葉と映像ですが、小原さんは福間さんに何を習っていたんですか?」
小原「表象文化論専攻だったので、言葉とかじゃなくて英語と映画の授業に出てたかな。映画に参加するまでは生徒のひとりでしかないから、監督の詩を読んだこともなかった」。
木村「台本をどう読みましたか?」
小原「初めてのとき、出来上がりが想像できない、話としての全体が把握できないと思った。プロではないので、その場のやりとりで作っていったかな。こういうのってプロの人にはストレスかなあって思うところはある。自分たちは、プロの人がしっかりやる、じゃないところで役に立てるかなと思った。木村さんは今回、芝居のプランをたくさん考えてきたので、一緒にやってて助けられると思いましたよ!」。岩井「今回のユキは、農業をやっていて、北海道から戻ってくるという設定ですよね」。
小原「これまでのユキは、フランスにいたり、何をやっていいかわからなかったりで、フワフワしたところにいた存在だったけど、今回の農業は飛躍だと。あのユキが成長したなあと思いましたね(笑)」。
木村「そのユキとぼくが組むとは、びっくりでした!(笑) 福間映画のミューズだったんですから!」。
岩井「木村さんの、死者=慎也への視線、さりげなくちょっと見る、のはよかったですね」
木村「死者に見られながら仕事する(シナリオと格闘する)、というのは惹かれるテーマでしたね。この世に生きることもわからなくなるような思いで死者=慎也を見る⋯⋯。鈴木一博カメラマンの仕事ですよね。それもこれも福間さんは全肯定の人ですから。舞台挨拶の日は最前列で見たので、もう自分の出てるシーンは見れないですよ!(笑)唯一見れるのは、お寿司を作るところだけですよ(笑)」。
岩井「普通に自然に人をもてなす、そういう二人がみえるところですよね」。
小原「亜矢子の誕生日のお祝い、夫が死んで一年たって励ます会なんだけど、亜矢子を丁寧に励まさなくても大丈夫、って感じが出てますよね」。木村「福間さんは『岡山の娘』以外は、東京の身近な場所で撮り続けてるけど、今回のように死者が出てきてもその場所に悲壮感がないですよね。死者と生者が近くなっていく」。
岩井「見てる側にとって、死者と生者の距離感、それがいいですよね」
木村「小原さん、4作出演して、福間映画の変化についてどう思いますか?」
小原「基本は変わってないと思うけど、『パラダイス・ロスト』は一番わかりやすい、というよりやさしいと思います。これまでは解説が必要なところもあったけど、ヒラカズ先生の詩とか、死者である慎也の言葉とか、4本のなかでは見てる人に伝わりやすい作品だと思う」。熱心に耳を傾けている観客のみなさんに、岩井さんが質問を投げかけたところ、すぐに手が上がりました。
バンコクから来て映画三昧しているという日本人の男性。「和田さんやヒラカズ先生役の森羅万象さんの名前で『パラダイス・ロスト』を見たが、自分も身体表現や詩やアートをやってるので、福間作品にぜひ出してください!」(場内笑)。
もう一人の方からは「カメラ目線について、死者の視線について、監督は他の役者たちに指示をしたのか」という質問。木村さんも小原さんも「言葉としてはなかったけれど、撮り方などでわかっていった。基本はカメラを見る、死者を見るということだったと思います」。今日のトークは、登壇者と観客とが、ひとつ大きなオーラに包まれて『パラダイス・ロスト』のなかにいる、というような空気がありました。これこそが映画の力だと思います。
いらしてくださったみなさん、小原さん、木村監督、ありがとうございました。
なんと、客席には、本作主演の和田光沙さんの姿もありました!コロナ危機が叫ばれるなか、こうして上映できて、お客様が来てくださることを、誰に?
この世とあの世にいる人たちに感謝します。
『パラダイス・ロスト』はひきつづきアップリンク吉祥寺で上映します。
どうぞ応援してください!
(宣伝スタッフ:吉祥寺の娘、写真撮影:山本龍) - >> 記事一覧へ