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上映レポート
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2021.5.21札幌上映会レポート
福間健二監督作品初めての札幌での上映と、上映会を記念して開催した福間健二展が終了しました。
コロナ状況は悪化の一途をたどるなかで、4月21日からギャラリー犬養でスタートした福間健二展の間も、果たして上映会は実現できるのか心配でした。会場の札幌市民交流プラザの、一部の行事は中止になり、迫りくる不安を抱えながらの5月の始まり。そんな状況にもかかわらず、福間健二展も、ギャラリーで行なった朗読会も、上映会も、心配を吹き飛ばすほどのお客さまが来てくださって、ほんとうにありがたかったです。5月9日日曜日、ついに今日が来ました! あいにくの曇りで気温は10度。しかし、今日を迎えられたよろこびで、寒さは感じません。
時計台の近くにある札幌市民交流プラザは信じられないほど立派で新しい施設です。会場のSCARTSスタジオはプラザの2階にあり、優雅なエスカレーターで上った左手に位置します。
10時から搬入・会場セッティング・スクリーンチェックを行なって、11時半開場。スタジオの前にはたくさんの方が並んで待ってくださっていました。
札幌は「まん防」が11日から実施されることが決まり、上映会も前日にキャンセルが増えたのでしたが、思いがけぬことに当日駆けつけてくださった方が多くいて、11:50からの1回目『パラダイス・ロスト』は満席でスタートしました。スタッフ一同、胸をなでおろして笑顔です!続いて14時50分からの、福間監督第3作『わたしたちの夏』、そして17時30分からの2回目『パラダイス・ロスト』と、順調に上映は進みました。どちらも満席近いお客さまで、うれしい限りでした。
じつは、延期となった1月の予定では、『パラダイス・ロスト』2回上映と、劇中音楽担当のメノウのミニライブを行なうスケジュールでした。ところがその後のコロナ状況から5月に開催するにあたって、会場側からライブは難しいと言われ、ならばと『わたしたちの夏』を併映することに決めました。というのも、この作品には室野井洋子さんが印象的に出演していて、追悼の意味もこめて彼女が生きた札幌で上映しようということでした。さて、3回の各上映後の福間監督と主催のReguRegu小磯卓也さんのトーク、そしてQ&Aの様子をレポートしました。
★『パラダイス・ロスト』上映後のトークと質問
まず福間監督が『パラダイス・ロスト』が生まれるいきさつについて語りました。
福間「『パラダイス・ロスト』は、3年前から企画を進めていた、帯広近くの新得町で撮影する「天使の生きる場所」という作品が、物語は違うけれど、元になっています。そのときにキャストとして和田光沙さん、小原早織さん、メノウのハヤシヒロトさんとかも決めていて、主要スタッフもキープしていた。ところがこの企画が流れた。どうしたものかと悩み、失望のなかで「パラダイス・ロスト」という言葉と、原民喜と木下夕爾の詩が浮かんだ。そこから脚本を書き直し、東京の夏で、死者の視線から物語を組み立てていった。その間に、音楽はメノウしかない、と思った。さらに亡くなった室野井洋子さんの映像を入れることも考えていた。つまり、この作品はどこかで北海道を引きずりながら東京で撮ったというものです」。
小磯「みなさん、ついに『パラダイス・ロスト』を見ましたね! このコロナ禍で、今日を無事に迎えられて、とてもうれしいです。ありがとうございました。ぼくはこの作品を初めて見たとき、死者の視線にとまどったんです。でも慣れてくると、自分が死んで上からこの世界を見たら、果たして夫の慎也が見ているように見えるのだろうか、そんな不安もあった。でも見終わった瞬間、ハッと気づいたんです。ぼくはホドロフスキー監督の作品が大好きなんだけど、パラロスと共通する何かが一気に浮かんだんです。で、この映画は絶対に札幌で上映しなければと思いました」。
福間「死者がこの世を立ち去れない思いがあったら、どうなるか。木下夕爾と原民喜から、死を乗り越えて、死んでからの方がこの地球を愛するんだ、というのを教えられて、これだ! と思った。死者を演じた江藤修平くんは大変だったと思うけど、よくやってくれた」。
小磯「ふつうの映画では、役者は映画の世界に合うように演技をしているけど、福間さんの映画では役者の演技が自然で、どうやっているのだろうと思いましたが、役者がそこにいることを大切にしているのだと気づきました」。さて、札幌のお客さんは熱心です。鋭い質問が出ました。
Q1「死者の弟の翔がキャッチボールをするシーンは、夜なのか明け方なのか、不思議な印象でした」
福間「あれは実は、昼間にカメラを絞って撮ったんです。投げたボールを、ヒラカズ先生が取る。このつながりは、ユキと講平の夜、翔の夜、ヒラカズの夜ということなんです」。Q2「タイトルにこめた意味はなんなのでしょうか」
福間「元の企画「天使の生きる場所」が消えたから、パラダイス・ロスト=失楽園ということでもあるんだけど。コロナ以前からある、夢が実現しなくてそれでも生きていかなきゃ、ということ。それを亜矢子に言わせた。大丈夫じゃないけど、生きていく、と」。Q3「公園で若者たちが語る話の内容は、脚本にあったのですか?」
福間「あったんですが、リハーサルのときに、助監督に言われたんです。自分が思っているようなことを彼らに言わせてはダメだって。ああそうだ!って思ってね。それで、自由にしゃべってもらっているんです」。Q4「ご飯はできているか、の意味は? 実際のご飯の場面はリアルですけど、このシーンは違いますよね」
福間「うーん、これはね、たとえば震災で家族を失った人は「ご飯できてる?」なんて言えなくなっている、ということを意識したことから、合言葉的に思いついたんです。ちょっとうまくいかなかったかもしれないけど⋯」。時間が迫るなかで、どんどん質問が出て、終わってからも監督に話しかける人が多いという、監督冥利に尽きる上映後でした。
★『わたしたちの夏』上映後のトークと質問
福間「暑い夏だったけど、この映画は幸福な感じで撮れたと思う。吉野晶さんとは長いつきあい、鈴木常吉さんはライブで出会っていて『岡山の娘』を気に入ってくれていた、小原早織さんはぼくの授業に出ていた、この三人を軸に物語を考えていった。室野井洋子さんは、ちょうど撮影中に上京するというのでお願いした。札幌から直行で、16時半に撮影場所の国立に着いて、19時までに出演シーンを全部撮ってしまった。金網前のシーンの撮影は、狭い道で引きのない場所で、そこで身体表現を、という無茶な注文だったにもかかわらず、上半身で彼女の存在感を十二分に出してくれた。2テイクのみ、鈴木一博カメラマンとの勝負だった。上がったラッシュを見たとき、室野井さんは、カール・ドライヤーの『裁かるるジャンヌ』のジャンヌだと思った」。
小磯「室野井さんのダンスは大好きで、ストーリーや感情のないところが美しい、といつも思ってました。この映画では、室野井さんが登場するところからぐんと変わる。芸術は意識を変える、とでもいうように、前半は制御されているけれど、後半は制御不能、まるで監督がアクセルを踏んでいるように思える。カット割りも速くなってますか?」
福間「鈴木カメラマンとの初めての仕事で、正面カットの都合よさを、撮りながら思いついたことがうまくいったと思う」。
小磯「千石先生の授業のところ、先生も学生たちも自然ですよね」。
福間「千石先生の授業を見学に行って、いいなあと思ったんです。本当の学生もそうじゃない人も参加してもらって、3回授業をやって3回とも本番で撮っていて、それを組み合わせている。映画は監督が何もしなくても、みんながそれぞれの力を出してくれる、そう思いましたね」。年配の詩人の女性から、おもしろい質問が出ました。
Q「サキちゃんのおばあちゃん役の人が知り合いの詩人に似ていて、その方が出ているのかと一瞬思いましたが、どういう方ですか?」
福間「あれはぼくの母です。あの家はぼくの実家で母が住んでいて、そのまま本人にもサキのおばあちゃん役で出てもらったんです」。19時40分、3回の上映とトークは熱い拍手をいただいて、無事終了しました。
福間監督はあらためてお礼を言いました。
「札幌の今日の状況で、ほんとうによく来てくださいました。ぼくの映画を意欲的に見てくださる方と出会えたことは、これからの大きな力です。ありがとうございました!」。片づけが始まっても、監督のまわりには声をかけてくれる人たちが残っていました。コロナ禍では握手もかないませんが、思いはしっかり受けとめました。
濃密で幸福な札幌の時間は、書きつくせないほどです。
映画と展示に足を運んでくださった、北海道と札幌のすべてのみなさんに、心からのありがとうを送ります。そして、主催のReguReguのお二人と、ずっと二人を支え尽力してくれた友人たちに深く感謝します。
また必ず、札幌で、道内のどこかで、お会いしましょう!
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