Reports / Kenji Fukuma's Page

上映レポート

  • 松本CINEMAセレクト上映レポート

    11月28日(土)は、福間映画初めての長野県、松本CINEMAセレクトでの上映でした。
    CINEMAセレクトは、松本で40年以上の歴史を持つ自主上映組織で、代表の宮嵜善文さんと多数のボランティアスタッフによって運営されています。ほぼ毎週末に松本市内の会場を借りて、まさに「セレクト」された作品を上映してきています。
    このたび、福間映画も念願かなっての上映、それも第1作『急にたどりついてしまう』と第3作『わたしたちの夏』を併映というありがたい『パラダイス・ロスト』公開、題して「福間健二監督特集」となりました。

    暖かさが続いた11月でしたが、11月28日当日は、冬到来と言わんばかりの寒さがやってきた日になりました。
    ちょうど1回目の『パラダイス・ロスト』が終わるころに、福間監督は会場の「まつもと市民芸術館」に着きました。建物の立派さにまず驚き、中に入って正面の階段に歓声をあげ、その階段を上ったところの待ち合いスペースの広さに仰天しました。こんな優雅な会場で自分たちの映画はおろか、他の映画も見たことがありません。すごいところです!
    そして、小ホール前で受付をしてくださっているスタッフの方と、宮嵜さんに挨拶しました。

    『パラダイス・ロスト』『急にたどりついてしまう』の上映が終わり、福間監督は久しぶりに『わたしたちの夏』を見て、続けて2回目上映の『パラダイス・ロスト』も見てから、トークに登壇しました。お相手はシネマセレクトスタッフの木村さんです。

    木村さんは、なかなか鋭い指摘から始めました。
    原民喜の短編と木下夕爾の詩を引用していて、木下夕爾の「死の歌」は「僕は」という一人称で語っている。劇中でその詩を読んでいるのは死者である慎也ですが、死にゆく男の一人称ということで、慎也が「死の歌」の続きを映画で受けついだのかとも感じました。それは詩人でもある福間監督にしかできないことなのではないかと思ったのです。

    それを受けて福間監督は、この映画の始まりから話しました。
    この映画は自分にとって大きかった二つの死が土台になっている。そこで『わたしたちの夏』でも引用した原民喜と、原民喜に影響を受けている木下夕爾が浮上した。木下夕爾の「死の歌」の「自分を抱いていた地球を 別な愛のかたちで抱く」。この大きな言葉に、死者は地上の人を見ているのではないか、と思った。慎也は死者となったけれど、地上を見ている。妻の亜矢子も友人の講平も、義理の弟も父も。その視線を出して、生きている者もそれを感じる、というようにしたかった。

    さらに木村さんは言います。
    カメラの動きは、最初はガッチリですが、そのあとさまようような死者の視線が出てくる、さらに死んだはずの慎也本人も登場する。それは死者の動きなのでしょうか。

    ぼくは基本的にはフィックスなんだけど、とらえきれないものもある。死者の視線はN H Kの「世界街歩き」という番組の、歩きながらの視線の不思議さにヒントを得た。そのためにステディカムを進化させたといえるジンバルを鈴木カメラマンに使ってもらって、それを慎也の視線にした。そして慎也自身はいかにも死者というのではなく出そうということで、演じた江藤修平くんにもアイディアを出してもらった。小公園にいる義弟の翔との場面はぶら下がったり、義父とのところは踊るなど、死者にあるまじきアクションを考えた。

    映画をつくっている人は誰か、という問いはあるわけですが、詩は福間さん自身、でも映画をつくる福間さんはひとりではない。この映画で福間監督は死者と生者のどちらにいるのだろうかって思いました、と木村さんは言います。

    それは答えがとても難しいけど、ぼくはというか監督は、いろんな「対立」の間に身をおく、思いどおりにいかないその間にいるんだと思う。今日久しぶりに『わたしたちの夏』も見たけど、カメラマンも録音も編集も、もちろん役者も、ほんとうによくやってくれてる、そう思う。こんな勝手なことをやってる監督はいないけど、みんなの、それぞれのいい仕事を受けとめたい。そして監督する、というよりもこの世界の現実がつくりだすものを大切にしたい、と福間監督。

    ほかにも話題は尽きませんでしたが、話が止まらない福間監督が、ちょっとしおらしくなったところで、松本レポートは締めた方がいいですね。
    木村さん、どうもありがとうございました!

    22時に撤収しなければならないこの立派なホール。スタッフ全員がすばやく片づけをしてくださいました。外に出ると、松本の夜はぐんと冷え込んでいました。

    今日来てくださったすべてのみなさん、三作すべて見てくださった方、そしてシネマセレクトのみなさん、ほんとうにありがとうございました。
    これからもどうぞよろしくお願いします!

    *写真はスタッフの皆さんと(百瀬さん撮影)

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