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上映レポート

  • アップリンク吉祥寺 3月30日

    アップリング吉祥寺での『パラダイス・ロスト』上映、土日は休館となったあとの再開第一日。上映後のトークは、本作主演の和田光沙さんと福間健二監督。二人とも、上映もトークもやっていいのかというほどの、不安な現在の情勢を意識しながら、そんなときに見にきてくださった観客のみなさんへのお礼からスタートです。

    映画を見るのは、不要不急なことなのでしょうか。福間監督が、こういうときじゃなくても「映画を見に行く」と言うと、そんなに大事なことじゃないだろう、他のことをしろという反応が返ってきた少年時代の思い出を語りました。
    「とくにこういう切羽詰まった状況のなかでこそ、映画に救われるってこと、ありますよね」と和田さん。

    そして、お二人の出会いから。
    和田さん「いつのまにか出会っていた感じで、はっきり思い出せない」。
    福間監督「和田さんの主演したサトウトシキ監督『花つみ』を見て、それからしばらくしてどこかの忘年会で会ったんじゃないかな」。
    そのときわかったお二人の共通の知人が、本作にも謎めいた太田役で出演している演劇プロデューサーの岡田潔さん。福間監督とは長い長いつきあいの岡田さんの主宰するトム・プロジェクトの舞台で、和田さんは演出助手をやり、出演もしていたのです。

    和田さん「『秋の理由』を見に行ったとき、監督と初めてゆっくり話しました」。
    福間監督「あのとき次は出てもらいたいという感じになった」。
    それからちょっと紆余曲折あって、『パラダイス・ロスト』の亜矢子は最初から和田さんにやってもらうと決めて、いわゆるアテ書きでシナリオを書き、第一稿ができたころに福間監督はスキップ映画祭で上映された和田さん主演の『岬の兄妹』を見に行き、「舞台挨拶に浴衣姿で登場した光沙ちゃん、きれいだなと思いました」。
    和田さん「それより前に、福間監督が、城定秀夫監督作品のわたしをいいって言ってるのが耳に入ったりしていました」。

    福間監督「で、『岬の兄妹』を見たのが7月くらいで、8月の後半に『パラダイス・ロスト』を撮った。一昨年の夏です」。
    和田さん「暑い夏でしたね。最初の日、前日まで出ていた作品の撮影が長びいて、ほとんど寝てない状態で行って、もうろうとして撮ったシーンがいくつかあります。でも、物語のなかでも、それが前夜寝てないという設定のところだったりして」。
    福間監督「考えているわけじゃないけど、ラッキーというか、ぼくの映画は現実と重なるところから本当のことをもらってる」。

    和田さん「シナリオ、決まってないところがあるんで、そこは自分で考えていくしかない。宇野翔平さんの亀田くんと詩を読みあうところ、ただ『ギャグタイム』とか書いてありました。それから、とくに我妻天湖くんの翔は、自分で考えて言うところがいくつもあって」。
    福間監督「トルストイの『性慾論』から世界についてまで、ほんとうによくやってくれた。光沙ちゃんがまたそれをうまく受けてくれた」。
    和田さん「わたしも、驚きながらでした」。

    『パラダイス・ロスト』の亜矢子役は、和田さんがこれまで城定作品や『岬の兄妹』でやってきた役柄とは大きくちがいます。
    和田さん「いままでのワーッとやる役じゃないので、むずかしかった」。
    福間監督「強烈なキャラクターを怪演的にやる光沙ちゃんのおもしろさ、すごいんですよ。いままで言ってないことをひとつ言うと、そういう強烈な役は、その人が環境によってそうなっていると説明できるもの。でも、人は環境でそうなっているということだけで生きているわけではない。環境では説明できないもの、それを亜矢子にやってもらいたかったんです」。

    客席からの質問。
    和田さんには「詩を読むシーンがいくつかありますが、そういうことはいままでされたことがあるんですか?」
    和田さん「詩ではないんですが、毎年、8月に新宿のお寺で朗読劇をやっていて、それも実は『ヒロシマ』がテーマで、そこで原民喜とつながるってこともありました」。
    福間監督には「原民喜という作家は監督にとってどういう存在なのか?」。
    福間監督「ぼくは、大好きなんです。原爆を体験したから原爆作家というのでなく、初期の作品から、原爆が起こるようなこの世界の悪夢的なところを予感している。絶望と希望を交互に生きてきて、ついに自殺してしまう作家。その死はただの絶望というものではなかった。死というものを考えるとき、どうしても原民喜のことを思うんです」。
    その原民喜が亡くなったのは、中央線の西荻窪と吉祥寺のあいだの線路の上。『パラダイス・ロスト』がいまその近くで上映されていることに、会場のみなさんも感慨深そうでした。

    最後に和田さんが「こんな状況ですが、映画が人をつないでくれるってことがある。『パラダイス・ロスト』は、まだ世界をあきらめなくていいんだよって言ってる映画だと思うので」と言ったあと、ちょっと間をおいて「がんばっていきましょう。ありがとうございました!」と結びました。

    『パラダイス・ロスト』の上映、続きます。どうぞ、みなさん、よろしくお願いします。
    (宣伝スタッフ 吉祥寺の娘)

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