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上映レポート

  • アップリンク吉祥寺 3月27日

    アップリング吉祥寺での『パラダイス・ロスト』、27日(金)、第2週に入りました。しかし土日は休館が決定。この先どうなるかという不安のなかの上映でした。街歩く人の数もいつもより少ないというなか、駆けつけてくれた18人のお客さんに、ほんとうに感謝です。
    批評家の渡邉大輔さんをお招きしての上映後トーク。福間監督は、皮切りに、かつての吉田喜重作品『嵐を呼ぶ十八人』を思い出して客席のみなさんに「コロナの嵐の中の十八人ですね。ありがとうございました」とお礼を言いました。

    「マスクをとって話させてもらいます」と渡邉さん。『パラダイス・ロスト』とここまでの福間ワールドについて明快に言葉をくりだしていきます。
    「『急にたどりついてしまう』からここまで、共通しているのは、みずみずしい青春映画であること。それと同時にアピチャッポンに通じるような幽霊映画でもある。『パラダイス・ロスト』はその集大成。そして福間さんは詩人でもあるので、最後に亜矢子と死者の慎也が言葉によって通じあうように、やはり言葉が重要な役割を果たしていますね」。

    福間監督は「映画は、闇と光だという思いがつよくなってきた。幽霊ということを言われたけど、闇の大切さを意識すると、生と死の境目、この世とあの世を行き来するようなことを入れたくなってくる」と言いました。「どうしても絶望感から出発するということもあって」。
    渡邉さん「その絶望は、世界に対して? それともいまの映画のあり方に?」。
    福間監督「これの前の企画が流されるなど、映画が作りにくいことも意識しているけど、ぼくにとって、それと世界への抗議は切り離せない」。

    渡邉さんは、『パラダイス・ロスト』での人物のとらえ方、人間像のあり方の、ハリウッド映画などとはちがう独特さを指摘します。「宇野祥平演じる亀田くんをはじめ、通常の『生き生きした感じ』とはズレている。ハズレている。シルエットのようにボワーッと存在する。それを正面ショットでとらえて、二人の場合でもスムーズな切り返しをしない」。
    さらに、福間作品の、フレームの外から聞こえる声や、人間ではないものの眼差しを感じさせるカメラ・アイ、めちゃくちゃ踊る死者など。「幽霊」が存在しているし、「映画の現在に肉迫している」。
    渡邉さんの言う「幽霊映画」って、どういうことでしょうか。なんとなくわかってきた気がします。

    「いろんなこと、どれもひとつの理由でそうなっているわけではなく、重なり、つながっている。まず、人が、とくに男性が、この世界に自信をもって存在しているのがいやだってことがある。自信のある人に魅力を感じない。ぼくも自信がない状態で撮っていて、編集してみなければわからないってことがあるので、正面ショットは、前後どういうふうにでもつなぐことができるから使う。見られている人、それが見る人でもあるように撮りたいし、死者が見ているとするとその視点が切り返し的に動くことはないと思うし」と、福間監督は自分の方法を語りました。

    話はつづきます。渡邉さんはシャープに『パラダイス・ロスト』論を展開。福間監督はそれをうれしそうに聞いて、いつもより神妙です。
    「幽霊といえばまずマルクス・エンゲルスの『共産党宣言』を思うんですが、デモする若者たちの議論の意味は?」と渡邉さん。
    「体制批判だけど、ぼくが持つそれではなく、若者たちに自由にしゃべってもらって、それが慎也や亜矢子のいる世界につながるようにした。翔のセリフも大事なところは決めていなくて、演じる我妻天湖に考えてもらった」と福間監督。

    翔に対して、渡邉さんは二十歳の自分を見ている気がしたそうです。福間監督も、翔を撮りながら「若松プロのころの自分を思い出した。そして翔に言ってもらったことへのぼくの共感は、なぜかぼくの好きな新海誠作品の、ある部分にも通じていく」と。
    渡邉さん「今回は少年が輝いているけど、福間さんのフィルモグラフィーでは、若い女性、少女のような存在が、世界を引っぱっていくということがありますね」。
    福間監督「この世界、ほんとうにどうにもならないことを突破するのは天使的な力。ただの天使ではなく、パンク性のある天使。亜矢子の和田光沙さんにもそれを出してもらった。とくに翔と結ばれたあとにもうひとりの佐々木ユキの詩を読むところで」。

    話は尽きません。渡邉さんの言葉に勢いづけられた福間監督がいまやっている仕事についてチラッと漏らした場面もありましたが、予定の時間をオーバーしたところで、渡邉さんはこんなふうに締めくくりました。「あらためて、福間さんの映画はみずみずしい青春映画だと言いたいです。若い世代が老成したり達観したりしているように見えるいま、同時代のフロントを突っ走っている。これからも過激に突っ走ってもらいたいです」。

    渡邉さん、そして来てくださった18人のみなさん、ありがとうございました!
    『パラダイス・ロスト』、28日と29日はお休みとなりましたが、30日(月)からは上映が再開されます。どうぞ、みなさん、ひきつづき応援してください!
    (宣伝スタッフ 吉祥寺の娘)

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