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福間健二のページ

  • 『パラダイス・ロスト』に出てくる詩 02

    *福間健二作品 全篇が出てくるもの (1)

    黒砂糖

    夢で会う人
    いつかほんとうに会えると思った。
    オレンジ色の倉庫街
    水たまりに何度も足を突っ込んで
    おしりまで濡らしながら

    とっさの判断で
    歩けない草たちを踏まないように膝を閉じて
    屋根だけはりっぱな事務局
    用事はなくても
    休んでいきなさいと言われたけれど

    わたしは女生徒だ。
    水島先生
    人間という機械の奇怪さを
    ここで説明すべきなのかどうか
    修理の終わったばかりの楽園から
    苦難の配給があっても
    笑顔で終わる
    よくできた一日を盗むと
    おいしい砂糖がおまけで付いてきた。

    水島先生の故郷
    南の島の黒糖
    袋には黒砂糖と書いてある。
    もうすぐなのかな。会ったら
    この砂糖を使ったタレにつけこんだ
    半熟卵のてんぷらだ。


     
    〔ノート〕
    亜矢子(和田光沙)は、あひるの家でふたたび働くようになり、翔(我妻天湖)と体の関係をもち、絵もまた描きはじめたというところで、この詩を読む。ヒラカズ先生(森羅万象)の教え子だったもうひとりの佐々木ユキの書いた詩として。そこでは「水島先生」が「ヒラカズ先生」に変わっている。もともと「水島先生」はぼくが親しくつきあっている詩人水島英己である。ヒラカズ先生は、詩人水島英己のイメージからぼくが勝手に生みだした、この世をさまよう人なのだ。映画では、この詩のあとに、ずばり、ヒラカズ先生のつくった「砂糖を使ったタレにつけこんだ/半熟卵のてんぷら」が出てくる。「福間塾アンソロジー2019」(2019)に発表。

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