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2019.12.22『パラダイス・ロスト』に出てくる詩 01
木下夕爾作品
死の歌
僕はまもなく死ぬだろう
僕は完全な無機物になるだろう
僕は今まで持たなかった自由をもつだろう僕は視る
僕を燃やす焰の色で僕は語る
僕を燃やす風の音で
そうして僕は自分を抱いていた地球を
別な愛のかたちで抱く〔ノート〕
木下夕爾(1914〜65)、郷里の広島県福山市で薬局を営みながら、詩と俳句を作りつづけた。この作品は、「僕は生きられるだろう/僕は生きる/眠りのあとに目覚めがくるように」と」と書きだされる「生の歌」と対になっている。原民喜作品
心願の国(部分)
ふと僕はねむれない寝床で、地球を想像する。夜の冷たさはぞくぞくと僕の寝床に侵入してくる。僕の身躰、僕の存在、僕の核心、どうして僕は今こんなに冷えきっているのか。僕は僕を生存させている地球に呼びかけてみる。すると地球の姿がぼんやりと僕のなかに浮かぶ。哀れな地球、冷えきった大地よ。だが、それは僕のまだ知らない何億万年後の地球らしい。僕の眼の前には再び仄暗い一塊りの別の地球が浮んでくる。その円球の内側の中核には真赤な火の塊りがとろとろと渦巻いている。あの鎔鉱炉のなかには何が存在するのだろうか。まだ発見されない物質、まだ発想されたことのない神秘、そんなものが混っているのかもしれない。そして、それらが一斉に地表に噴きだすとき、この世は一たいどうなるのだろうか。人々はみな地下の宝庫を夢みているのだろう、破滅か、救済か、何とも知れない未来にむかって……。
だが、人々の一人一人の心の底に静かな泉が鳴りひびいて、人間の存在の一つ一つが何ものによっても粉砕されない時が、そんな調和がいつかは地上に訪れてくるのを、僕は随分昔から夢みていたような気がする。〔ノート〕
原民喜(1905〜51)、広島での原爆体験をもとに書いた小説「夏の花」が代表作。小説だけでなく、詩も書いた。その自死の直前に書かれた「心願の国」は、短篇小説であるが、全体を散文詩として読むこともできそうな作品。 - >> 記事一覧へ